「地層が知りたくて……」。先頃報じられた、考古学愛好家の男が、宮内庁が管理する西殿塚古墳(奈良県天理市)を掘り返していて、お縄になった事件。男の供述が、これである。 単なる古墳でも盗掘は許されるものではないが、この古墳は現在も宮内庁が継体天皇の皇后・手白香皇女の陵墓として管理している古墳。つまり、宮内庁としては現在も祀られている皇族の墓という扱いなのだ。 宮内庁が陵墓として管理する古墳は、北は山形県から南は鹿児島県まで、1都2府30県に存在する。そのうち歴代の天皇陵が112、皇后陵が76にもなる。これらは、現在も機能している墓であり、考古学の研究目的でも発掘が許可されることはまずあり得ない。また、中に立ち入るのももってのほかだ。そんな古墳を、大ざっぱにシャベルで掘り返そうとしたのだから、もはや「なんかのテロか?」と思われても仕方のないレベルの犯罪行為だ。そもそも、通常の発掘調査では、同じ時代の地面が露出するように、一枚ずつ皮をめくっていくように地面を削っていくのがセオリーである。今回の事件のような行為は、まさに墓泥棒、そのものである。 さて、真面目な発掘現場でも、泥棒やトンデモない行為をする人は出るものである。長年、遺跡発掘に携わっている、ある地方自治体の人物は語る。 「日本で行われる発掘調査の大半は工事に伴って行われるので、パッと見は工事現場と区別がつきません。それに、発掘調査が終わったところから工事が始まっている場合も多々あります。そのため、工事現場で起こる窃盗事件もけっこうあるんです」 工事現場では、朝現場に来てみたら備品がなくなっていた、なんてことも起こる。さすがに、重機が消えるほどの大事件はまれだが、夜の間に備品が盗まれているということは多いという。 「冬の発掘現場なんですが、ある朝、現場にある休憩所に使っているテントのところがやけに寒かったんです。“今日は寒い日だなあ……”と思っていたら、石油ストーブがなくなっていました」 吹きっさらしの冬の発掘調査の現場は寒いのが当たり前。そのため、昼頃まで誰も気づかなかったのだとか。ほかにも、ある現場では仮設トイレが丸ごと姿を消していたこともあったという。このように備品が盗まれる例は後を絶たないが、発掘現場から出土した土器や石器が盗まれることはまれだという。 「発掘現場では、ブルーシートを敷いて養生するんです。時々、夜中に誰かがシートをめくった跡があることもありますが、出土した遺物がなくなることはまずありませんね。さすがに土器のカケラなんかに価値はないことは、誰でもわかっているみたいですね」 むしろ、発掘した遺物が行方不明になるのは、発掘作業を終えて整理をしている段階だという。 「土器や石器は、水洗いして番号を記入してから図面に起こしたり記録を取っていくんですが、怖いのは水洗いをして番号を記入するまでの間です。水洗いをして乾かしている時にごちゃまぜになってしまって、どれがどこから出土したものか、わからなくなってしまうこともあります」 東京都の文化財に指定されているある遺跡では、この結果、貴重な遺物がどこから出土したものかわからなくなってしまい、大問題になったこともあるとか。通常の発掘調査で怖いのは、泥棒よりも作業のお粗末さということか。 (取材・文=昼間たかし)西殿塚古墳(Wikipediaより)
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ロマンあふれる発掘調査……墓泥棒よりも怖いモノとは?
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