バングラデシュで、JICA(国際協力機構)が発注したプロジェクトに参加していた日本人8人が死傷した人質テロ事件について、現地派遣のための治安情勢の判断が妥当だったかどうかを検証するというが、当のJICA関係者からは「JICAの判断が問題なのではなく、日本の判断が間違っている」という声が上がっている。 「日本がイスラエルと武器を共同開発したり、『テロと戦う』とか言ってアメリカのイラク侵略を肯定したりすればするほど、危険リスクが高まっているのは事実。世界各地の治安が悪いのは今に始まったことではないですが、昔は『日本人なら話は別』と言って守ってくれたんです。でも、今は『日本人なら敵だ』になってます」(同) 実際に海外赴任を長く経験した別の元JICA職員に話を聞いてみた。安原明さん(仮名・60代)はこれまで、アフリカ諸国やアフガニスタン、パプアニューギニアなど世界各地で現地事業に就いてきた人物で、「私もダッカの件と同じような調査事業や、その前段階の案件形成調査というものを数多くやってきた」という。 「アフガン、ルワンダ、南スーダンなどでは当初、現地のJICA事務所もホテルもなく、テントに寝泊まりして支援体制の基礎作りからやりました。当然、危険とは隣り合わせです。90年ごろ、同僚がペルーで野菜作りの指導にあたっていたところ、ゲリラに殺された事件もありました。これは貧困農民が麻薬栽培で生計を立てていたのを救うためでしたが、待ち構えていたゲリラに問答無用で射殺されたんです。そのゲリラの資金源は麻薬だったので、彼らにとってJICAは敵だったわけです。こういう犠牲を重ねた上に、信頼関係を築いて各地に行けるようになった」(同) 支援のための開拓者であった安原さんだが、現地で重要なのは「人と人とのつながり」だったという。 「現地への無償協力は基本、JICAが専門家を派遣して事業を行いながら、相手国の人材に技術を伝えていくというもの。だから、その国に応じた形の人の信頼を得られないまま作ってはいけないんです。JICAは日本では知らない人も多いのですが、途上国ではかなり有名。私に言わせれば、このように人と人のつながりで、日本のイメージが良くなったのに、現政権がそれに逆行する外交政策をしてしまって、特にアラブ諸国とは断絶みたいになりつつあるんです」(同) 日本がアメリカに追従して防衛強化、軍事衝突のリスクを高めれば、危ないのは一応の武器を持った自衛官よりも海外派遣された日本人たちというわけだ。JICAは昨年末より、バングラデシュの治安情勢の悪化から任期途中の関係者も他国に任地を振り替えたり、派遣そのものを見合わせるなどしていたが、ダッカでのテロ事件は想定外のことだった。 前出のJICA関係者は「この件でいくら原因究明のために情報収集をしたところで、根本的なところで考え直さないとまた犠牲者が出ると思う」と不安な表情で話している。いずれにせよ、地道に日本人が積み上げてきた世界各国での信頼がいま崩れつつあるのは、海外派遣者たちの率直な実感となっている。 (文=片岡亮/NEWSIDER Tokyo)「犠牲者の大半が日本人か・・・バングラデシュ人質事件(16/07/02)」(ANNnewsCH/YouTube)より
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「犠牲の上で築いた信頼関係が……」ダッカ人質テロで、JICA関係者から悲鳴が聞こえる
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