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1日の大宮駅
東海道新幹線の車両内で乗客がガソリンで焼身自殺、ほかひとりが窒息で死亡、26人が重軽傷を負った事件が波紋を広げている。自殺した林崎春生容疑者がポリタンクを車内に持ち込めたことで、各駅周辺での職務質問や手荷物検査が厳しくなっているという。
事件の翌日7月1日の午後、埼玉県の大宮駅では早くも多数の警官が警備。風呂敷を持った中年男性を「持っている荷物を全部見せなさい」と取り囲んだ。男性は仰天しながらこれに応じていたが、中に入っていたのは新聞紙や雑誌のみ。駅を行き交う通行人の間にも緊張が走ったが、何事もなかった。
大宮駅の駅員に聞いたところ「いつも巡回はあるのですが、警官の数が多い」と答えた。
「新幹線の通る駅は特にそのようです。JRが自主的に警備を強化すべきとの声もあるらしく、民間の警備会社にも応援を要請するそうです」(同駅員)
以前からテロ警戒で鉄道警察と連携して民間の警備員が駅構内、車内をチェックしてはいる。ただし通行人の職務質問や荷物検査となると警官の特権だ。そのため現時点では警察庁が全国の警察署に指示し、大宮駅でのような大掛かりな警戒活動となっているのだ。
1日の大宮駅では、新幹線の乗り場周辺などで、かさばった荷物を持った通行人が片っ端から職務質問された。足止めされた中には大きな楽器ケースを持ったミュージシャン風の男性もいて、見たところスーツ姿ではない私服の通行人が多く呼び止められていた。
ただ、こうした特別な措置は人員的にみて継続的に行えるものでもなく、緊急対応には限界がある。列車には飛行機のような念入りな手荷物検査を導入する余裕もなく、前出駅員からはこんな話も聞かれる。
「今日は事件の影響でみんな協力的に見えましたが、いつもはもっと反抗的な人が多いです。“なんで荷物を見せなきゃいけないんだ”って大声を出して警官を怒鳴る人や、見せた後に“おまえらのせいで遅刻だ”と怒る人とか。今回もしばらくすれば、また似たような感じに戻るのでは」
国土交通省はこの日、JR幹部を集めての緊急対策会議を開いたが、警備の強化以外に有効策は出なかった。現在、JR規則では可燃性液体の大半は容器を含め重量3キロ以内なら持ち込めるため、検査で見つかっても止められない可能性もある。この日、見られた職務質問が唯一の方策だとすれば手詰まり感も漂う。会議では「事前に防げないから、起こったときの避難対応を強化すべき」という意見も出たほどだ。
前出の駅員は「怖いのは模倣犯」とも話す。
「これで列車の無防備な印象がむしろ広まってしまったでしょう。今回の事件をヒントにテロや凶悪犯罪のターゲットに列車や駅が選ばれたら働く方としても怖い」
事件の影響は計り知れないほど大きい。
(ジャーナリスト・片岡亮)