8月後半から、新聞・テレビなど大手メディアが盛んに報じるようになった秘密保全法。「国家公務員の守秘義務を厳罰化する」などと解説されているが、多くの人は「それはよいことだ」と思うのではなかろうか。 ところが、この法律ができれば、官僚や政治家が「国家機密」の名目で、都合の悪い情報をすべて隠蔽し尽くしてしまう、恐ろしい事態が想定されているのだ。 まだ法案は具体的な条文として示されてはいないが、「国の安全」「外交」「公共の安全および秩序の維持」の各分野にかかわる情報を、行政組織の長が「特別秘密」に指定できるというのが、秘密保全法の基本だ。ところが、この時点で、見る人が見るとヤバさに気づくだろう。なにしろ、上に記した3つの項目が実際になんなのかまったくわからない。つまり、なんでも「特別秘密」にできてしまうというわけだ。 現在、自衛隊法では防衛機密を似たような方法で指定し、守秘義務を課している。建前では国民の知る権利を侵害しないとしているが、実際には自衛隊で扱うあらゆる情報は防衛機密として、国民に一切公開しなくても済むように扱うことができる。 純然たる軍事情報である防衛機密だけが対象なら、まだよい。ところが秘密保全法では、対象となる情報の範囲が曖昧すぎるのだ。「公共の安全および秩序の維持」なんて名目にすれば、どんな情報でも対象にできてしまうではないか。 さらに、守秘義務の対象は秘密を扱う国家公務員だけではなく、情報に触れる可能性のある民間人や、研究者なども含まれる。加えて秘密の情報を扱うにふさわしい人物かをチェックする「適正評価制度」という制度も導入されると考えられている。ここでチェックの対象となるのは、本人だけでなく家族や親戚、友人などにも及ぶと考えられる。「特別秘密」を扱う人が一人いれば、周囲の人間はみんな揃って、国家にプライバシーを暴かれてしまうというわけである。 そして、秘密保全法の最大の問題と指摘されるのは「特別秘密」に指定された情報にアクセスしようとしたり、漏らすことを働きかけるだけでも罪になることだ。 具体的にいえば、国家のヤバい情報を取材しようとしたら「アウト!」というわけである。しかも、行政機関は「何が『特別秘密』に指定されているか」を公にしなくてもよい。なので、ヤバそうな情報を取材しようとしただけで、アウトになる可能性も。当然、秘密を扱っている人物から情報を得ようとしたら、もっと悲惨な結果に……。 8月後半になり、政府は秘密保全法の概要をようやく明らかにした。この中で、町村信孝元官房長官は記者団に対して「正常な取材活動は問題ない」と発言している。しかし、いったい何が「正常な取材活動」に当たるのかは、明示されない。ともすれば、大手報道機関がやるのは正常だが、日刊サイゾーのような新興メディアやフリーランスはNGということも想定できる。 「報道を除外するのは想定の範囲。新聞各紙は秘密保全法が“知る権利を奪う”と批判していましたが、読売新聞なんかは、ここで妥協しちゃうんじゃないでしょうか」(政治部記者) 表現の自由の問題に詳しい上智大学教授の田島泰彦氏は、たとえ報道除外規定が設けられても、まったく無意味だと指摘する。 「情報の漏洩に対しては、最高で懲役10年の厳罰が科せられます。そうなると、いくら報道は除外しているといっても、情報源になる人はいないでしょう」 この法律ができれば、国民が知ることのできる情報が次第に減少していくのは間違いない。しかし、肝心の国民の側には危機感はまったくない。ある新聞記者は語る。 「児童ポルノ法の問題を記事にすると、オタクから反応があるじゃないですか。でも、秘密保全法は、まったく誰からも反応がないのです。それは、やはり国民の日常生活にどのような影響を及ぼすか、シミュレーションしにくいからです」 知る権利が制限されるとは、どういうことか? その危機感が国民に伝わることのないまま、法律だけは出来上がろうとしている。 (取材・文=昼間たかし)
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国家の痛いトコを取材したら逮捕される?「秘密保全法」の盛り上がらなさがヤバい!
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